第4章 — 「期待にコミット」

Q. 単価が安くて苦しい。どう上げるのか?

→ 稼ぐ目的を、自分の外に置く。

「高いんだよ!!!」

独立1年目が終わりに差し掛かった頃、私は最初のお客様である開発部次長の方に、月額50万円の見積書を出しました。

1年目の月単価は40万円でした。ただの顧問契約から始まった仕事は、1年の間に、技術顧問としての相談対応、衛生管理に関わるAIの開発、そのAIを設備へ組み込む作業、さらに社員の方10名を集めた技術講習会まで広がっていました。講習の場では、社員の方々の「やらされている感」がひしひしと伝わってきて正直つらかったのですが、それでも精一杯やりました。

業務範囲がこれだけ広がった以上、単価の見直しは正当だと思っていました。でも、対面で口を開いた瞬間、私はどもっていました。自分の声に、自信のなさが滲み出ていたと思います。

「単価は月額50万円で計算したいと思います……」

言い終わる前に、返ってきました。

「高いんだよ!!!」

次長の方に怒鳴られました。唖然として、すぐには反応できませんでした。予想していなかった言葉に、頭が追いつかなかったんです。

かろうじて、ニコニコしながら「そうですかね」と返しました。スタンスを変えるつもりはないことを、暗にお伝えしたつもりでした。

ただ、その場で「月額を下げる代わりに打ち合わせの頻度を半分にする」とか「1年ではなく3年契約にする」とか、そういう代替案がひとつも出てこなかったのは、経験の浅さだったと思います。契約交渉がゼロか百かではないことを、まだ知りませんでした。

その後、展示会の終わり際に、私の方から「来期の契約についてはいかがですか?」と聞きました。「まだ予算が決まらなくてね」という返事でした。決まっていない、ではなく「決まらなくて」。その言葉の温度で、あぁ、このまま終わるのだなと悟りました。

しばらくして、私はあの怒鳴り声の意味を、別の角度から考えるようになりました。

次長の方には大学生の息子さんが2人いて、社内では予算が縮小しているとも聞いていました。お立場を考えると、自由に使えるお金は決して多くないはずです。

そう考えると、あの「高いんだよ!」は、私への悪意ではなかったのかもしれません。私の値上げが、次長の方のやりたいことの一番の障壁になっていた。そういう状況で、余裕を失った人の言葉だったのかもしれない、と。

当時の自分に何か言えるとしたら、「自分が納得できる価格なら、それでいい。ただ、相手への押し付けにならないで、お互いが納得できる道を一緒に探せたら、もっとよかったね」でしょうか。

稼ぐ目的を変えた

1年目の契約が終わって通年の仕事がなくなった時期に、私はアニキのオンラインサロンにこんな質問を投稿したことがあります。

「稼ぐ目的が分からないのですが、どのようなモチベーションでアニキは大富豪になられたのですか?」

動画のコメント欄に書いた質問でした。そのコメントを見つけて、アニキに質問として届けてくれたのは、アニキの秘書のひろさんでした。しばらくして、アニキが別の動画の中で答えてくれました。

「自分のことだけ考えてるからそうなんねん。他人のことも自分事のように考えてみろ。例えばお前の母ちゃんが病気になって手術に1000万円必要になったとしよう。お前が稼いでたら手術の費用は出してやれるやん。誰か困っている人のためにお金使ってやれるやん。そうやって考えていくと、稼げるだけ稼いだ方がいいと思わん?」

頭を打ち抜かれた気がしました。

稼ぐ目的が分からないのは、自分のためだけに稼ごうとしているからだったんです。自分のためだけに頑張るのは、どこかで限界が来るようです。でも、大切な誰かのためなら、もう少し踏ん張れる。この時から、稼ぐ目的が自分の外側にできました。

仮想社員の見積もり法

この気づきから生まれた、私なりの見積もりの方法があります。「もし私の会社に社員がいたとしたら」と仮定するんです。

その仮想社員に、家族構成を設定します。共働きかどうか、子供が何人いるか、住まいはどこか。それで、「この家族みんなが笑顔で暮らすには、月にいくら必要だろう」と想像してみる。

すると不思議なことに、自分の単価より高い数字が出てくるんです。

自分のことは、無意識に安く見積もってしまうんですよね。でも、守るべき家族を持つ誰かのためなら、正当な金額を出せる。しかもその金額には根拠があるので、相手に説明ができます。妥当性が高くなるのは、たぶんそのためです。

親孝行という覚悟

アニキの言葉を受けて、私が最初にやったのは親孝行でした。

独立して売上が上がるにつれて、母親を豪華な食事に連れて行くようになりました。星野リゾートに一緒に泊まって、高級車を買って助手席に乗ってもらって、金沢や出雲へも旅行に行きました。

父は、すでに他界していました。父が生前、お墓用にと土地を買っていたことを知っていたので、私はその土地にお墓を建てました。

親孝行を、私はずっと「いつかやること」として先送りにしていました。稼ぐ目的が外にできてからは、先送りにしなくなりました。この覚悟が、単価への迷いも消していきました。提示する金額が大きくなるほど、「お客様には絶対に満足してもらおう」という気持ちも大きくなります。いただく金額の分だけ、相手の「期待」にコミットする。この循環ができてから、仕事の質も上がっていった気がします。

単価アップの本流

独立3年目、神戸で開かれた勉強会で、ひとりの大先輩と出会いました。出会いの詳しい経緯は第6章でお話ししますが、その場で「ここまで一人でできるなら、月に120万円は払えるな」と言っていただいたことが、単価への向き合い方を変えるきっかけになりました。

大先輩は「HiPro Biz」という技術コンサルタントの仲介サービスへの登録を勧めてくれました。「経験がまだ足りないと思うのですが……」と正直に話すと、「田中さんの実力なら大丈夫だよ」と背中を押してもらいました。

登録して最初に受けた仕事は、月額40万円。板金工場の自動化案件でした。

1年が経って、更新のタイミングで単価の見直しを申し出ました。叶わず、契約は終了しました。「高いんだよ!」の時と同じ結末です。ただ、今度は動じませんでした。新しく来る案件は月額120万円以上でなければ受けない、という方針を自分の中に持っていたからです。

いまは、年間契約だけで月額330万円、単発の案件を合わせるとそれ以上になってきています。

大先輩からは、仕事をする上での教えを3ついただきました。仕事は最低でも3つ掛け持つこと。契約書では公平な内容を心がけること。ロボットSIerの技量に合わせた提案ができると良いこと。

それから、仲介サービスの営業の方に「便利な奴」だと思われることも大事だと学びました。専門外の案件でも、まず提案してみる。断らない。そうしているうちに、「ロボット案件と言えば田中さん」という認識が生まれていきます。ある営業の方に実際にそう言っていただいた時、大先輩の言葉の意味が腑に落ちました。

「高いんだよ!」と怒鳴られた日から、月額330万円になるまでの間に、技術が急に深くなったわけではありません。変わったのは、稼ぐ目的の置き場所だけです。それが自分の外にできただけで、単価への向き合い方がこんなに変わるのかと、自分でも思います。


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